Single channel video (01:16)

This work is a self-portrait. My Korean mother and I as a Japanese sang KIMIGAYO(Japanese national anthem). KIMIGAYO is a song with no prelude. Therefore, when we sang together, I valued the harmony between us rather than the sense of belonging to Japan.


映像　(01:16)

「夜鳴くイヌは腹が減って鳴く」によせて

このとき私は、訳あって自画像をつくらなければなりませんでした。
私は自画像とは一人の人間が何らかの手法、形式を用いて自らをうつしとることだと思っています。多くの場合これは肖像画という形式、つまりなんらかの描画材を用いてその人の外観を描き出すことによって表現されます。しかしそれこそが自画像であるという考えには素直に頷けないところがありました。自己をうつしとる方法は鏡や写真をみて造形を追うことだけではないはずです。私は可能な限り、それ以外の方法でアプローチしてみようと考えました。　

思いついたのは母と合唱することでした。私は何から生まれ、何として生きてきたのかを端的に表せるからです。動物の鳴き声はしばしば同種であることを確認するために用いられます。人間も当然、人間だからこそ歌う瞬間があるはずです。

合唱をするということは、お互いが知っている歌でなくてはなりません。母とほとんど会話をしない私が、なんの疑いもなくお互いが知っていると確信できた歌は君が代だけでした。「私たちが育ってきた国」の国歌です。人生で何度も歌ってきました。しかし、ここで新たな問題が出てきました。これは「私たち」の国歌なのかという問題です。母の国籍は韓国で、日本人であるはずの私もなぜかこの歌に負い目を感じていました。

そして私は、この君が代に対する微妙な感情と似たものを母にも向けていた事に気付きました。
自らが引いた線を、歌うことをもって踏み越えること。不確かなアイデンティティにたんなる人間として振舞うことで勝利すること。いつしかそれが目的になりました。

歌い終えて、結果がどうなったのか私にはまだわかりません。母の祖先が生きた済州島の民謡、ノヨンナヨンなかに「夜鳴く鳥はあなたが恋しくて鳴く」という一節があります。結局、私たちはあの夜なにに向けて君が代を歌ったのでしょうか。少なくとも、吠えかける犬の声が別のものに向けられていたことしか私にはわかりませんでした。
